重なる差別の構造を理解する

不安定な在留資格が深める貧困:インターセクショナリティで読み解く複合的困難

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不安定な在留資格が深める貧困:インターセクショナリティで読み解く複合的困難

貧困問題の支援現場では、支援対象者の方々が単一の理由だけでなく、様々な要因が複雑に絡み合った困難を抱えていることを日々実感されていることと思います。経済的な問題に加え、性別、年齢、健康状態、家族の状況、そして出身などが、その困難をさらに深刻なものにしています。

中でも、日本に暮らす外国籍住民の方々の一部が直面する「不安定な在留資格」は、貧困と深く結びつき、見えにくい複合的な困難を生み出す重要な要因の一つです。本記事では、この「不安定な在留資格」という視点と、複数の差別や抑圧が交差する仕組みを示す「インターセクショナリティ」の概念を用いて、どのような困難が生まれるのか、そしてなぜその構造を理解することが重要なのかを解説します。

不安定な在留資格とは

「不安定な在留資格」とは、その名称の通り、日本に継続して滞在できるかどうかが不確実な状態にある在留資格、あるいは資格外の滞在を余儀なくされている状態を指す言葉として理解されることが多いです。

具体的には、以下のような状態が不安定な在留資格に含まれる場合があります。

このような不安定な状態にあることは、単に法的な身分が不安定であるというだけでなく、生活全般にわたる様々な困難に直結します。

不安定な在留資格が単独で生む困難

不安定な在留資格は、それ自体が以下のような様々な困難を引き起こす可能性があります。

これだけでも厳しい状況ですが、ここに他の属性や状況が重なることで、困難はさらに複雑化し、深刻さを増します。

インターセクショナリティで読み解く複合的困難

ここで、インターセクショナリティの視点が重要になります。インターセクショナリティとは、人種、性別、階級、性的指向、障害、年齢など、様々な属性が単独で存在するのではなく、互いに交差・重なり合うことで、より複雑で独自の差別や抑圧を生み出すという考え方です。

不安定な在留資格は、まさにこのインターセクショナリティを考える上で重要な「属性」や「状況」の一つと言えます。他の属性と不安定な在留資格が重なることで、どのような複合的困難が生じるのか、具体的な例を見てみましょう。

例1:女性 × 不安定な在留資格 × 経済的DV被害

もし、配偶者からの暴力(DV)から逃れてきた女性が、配偶者の在留資格に依存している、あるいは自身の在留資格が不安定な状態にある場合、その困難は劇的に増幅します。

このように、女性であること、DV被害者であること、そして不安定な在留資格であることが重なることで、単独の困難の合計をはるかに超える、極めて脆弱な状況が生まれます。

例2:高齢者 × 不安定な在留資格 × 健康問題

高齢になり、何らかの健康問題を抱え始めた方が、不安定な在留資格の場合、生活はさらに厳しくなります。

年齢、健康、そして在留資格の不安定さが交差することで、生存そのものが脅かされる状況に陥りかねません。

例3:子ども × 不安定な在留資格 × 日本語能力不足

不安定な在留資格を持つ親に帯同する子どもたちも、その影響を強く受けます。

子ども自身には何の責任もないにもかかわらず、親の不安定な在留資格と自身の年齢や言語状況が重なることで、成長や発達に不可欠な機会が奪われる可能性があります。

なぜこの視点を持つことが重要なのか

不安定な在留資格と貧困が交差する構造をインターセクショナリティの視点から理解することは、以下のような点で重要です。

  1. 問題の全体像を捉える: 目に見える経済的な問題だけでなく、その背景にある法的な立場、性別、年齢、健康などの要因がどのように絡み合っているのかを理解することで、支援対象者の抱える困難の全体像をより正確に把握できます。
  2. 根源的な課題へのアプローチ: 表面的なニーズ(例:食料提供)だけでなく、不安定な在留資格やそれに伴う法的な壁、社会的な孤立といった根源的な課題に目を向け、多角的なアプローチを検討できます。
  3. 効果的な支援計画の策定: 単一の支援では解決できない複合的な問題に対して、法的な支援、生活支援、医療支援、心理的なサポートなど、複数の専門機関やサービスと連携した包括的な支援計画を立てやすくなります。
  4. 他者への説明と共感の促進: なぜ特定の集団が特に脆弱な状況に置かれているのかを、複数の要因の重なりとして説明することで、社会に対する問題提起や、支援への理解・共感を広げることに繋がります。
  5. 制度・政策改善への提言: 個別の事例の背景にある構造的な問題を把握することで、より公平でアクセスしやすい制度や政策の必要性を具体的に提言するための根拠となります。

NPO活動における示唆

貧困問題に取り組むNPOにとって、この視点は活動の質を高める上で不可欠です。

まとめ

不安定な在留資格は、それ自体が様々な生活上の困難をもたらしますが、性別、年齢、健康状態、家族構成、言語能力といった他の属性や状況と重なり合うことで、予測不能で深刻な複合的困難を生み出します。

インターセクショナリティの視点を持つことで、私たちはこれらの見えにくい困難の構造を理解し、支援対象者の方々が抱える複雑な問題の全体像を捉えることができます。この理解は、より的確で包括的な支援を提供し、社会全体の公平性を高めていくための重要な一歩となります。

貧困支援の現場で、様々な困難に直面する方々の「なぜこんなに苦しいのだろう」という問いに対し、このインターセクショナリティというレンズが、構造的な要因を明らかにし、新たな支援の可能性を示す手がかりとなるはずです。