重なる差別の構造を理解する

高齢者の孤独・孤立が深める貧困:年齢、経済状況、社会との繋がり…重なり合う困難の構造

Tags: 高齢者, 貧困, 孤独・孤立, インターセクショナリティ, NPO活動, 社会福祉, 複合的困難

高齢者の貧困問題に見え隠れする「孤独・孤立」という要因

高齢者の貧困は、単に収入が少ない、貯蓄が少ないといった経済的な問題として捉えられがちです。しかし、支援の現場では、経済的な困難だけでなく、病気、家族との関係、そして特に「孤独・孤立」といった様々な要因が複雑に絡み合っているケースが多く見られます。

例えば、退職後に収入が減少し、生活費に困っている高齢の方がいたとします。この方がもし、遠方に住む家族がいたり、地域との交流が全くなかったりして、誰にも相談できずにいたとしたらどうでしょうか。経済的な問題は、孤立していることでさらに深刻化する可能性があります。これが、複数の要因が重なり合うことで困難が増幅される「インターセクショナリティ」という視点です。

インターセクショナリティとは何か?

インターセクショナリティ(交差性)とは、性別、人種、階級、性的指向、年齢、障害、健康状態など、複数の属性や社会的要因が単に並存するのではなく、互いに交差・影響し合うことで、単一の要因だけでは説明できない新たな差別や困難を生み出すという考え方です。

例えば、「女性であること」と「貧困であること」が重なることで、非正規雇用に陥りやすく、経済的に不安定になるリスクが高まる、といった事例が挙げられます。このように、複数の要因が重なることで、その人が直面する困難はより複雑で、より深刻になる可能性があります。

高齢者の貧困と孤独・孤立が重なる構造

高齢期には、収入の減少、年金収入のみへの依存、医療費の増大、身体機能の低下など、経済的な困難につながる様々なリスクが増加します。これに、孤独や孤立という要因が重なることで、以下のような複合的な困難が生じやすくなります。

1. 情報へのアクセス困難

経済的に困っていても、社会との繋がりが少ない高齢の方は、公的な支援制度(生活保護、医療費助成、介護サービスなど)や地域の相談窓口の存在を知らない、あるいは知っていても利用方法が分からないといった状況に陥りがちです。孤立が、必要な情報や支援へのアクセスを妨げる「見えない壁」となります。

2. 健康状態の悪化リスク増大

孤独や孤立は、精神的なストレスを高め、うつ病などのメンタルヘルスの問題を引き起こすだけでなく、生活習慣の乱れから身体的な健康も損ないやすくなります。健康状態が悪化すれば、医療費や介護費用が増大し、さらなる経済的負担となります。また、体調が悪くてもすぐに気づいてくれる人がいないため、発見が遅れ、重症化するリスクも高まります。これは、健康問題と貧困、そして孤独・孤立が相互に悪影響を与え合う構造です。

3. 経済的搾取のリスク増大

社会との接点が少ない高齢者は、悪質な訪問販売や詐欺などのターゲットになりやすい傾向があります。孤立しているため、不審な勧誘を受けても誰かに相談することなく、大切な貯蓄を失ってしまうリスクが高まります。経済的な脆弱性に、社会的孤立が重なることで、被害に遭う可能性が増幅されます。

4. 心理的な困難と問題解決能力の低下

孤独感や絶望感は、生きる意欲を低下させ、問題解決に向けて行動する力を奪います。経済的な困難に直面していても、「どうせ無理だ」「誰にも迷惑をかけたくない」といった思いから、必要な手続きを行ったり、支援を求めたりすることができなくなってしまうことがあります。精神的な状態が、経済的な状況を改善するための行動を妨げる要因となります。

このように、高齢であること(年齢)、経済的な困難、そして社会的孤立(孤独・孤立)といった複数の要因が重なり合い、それぞれが悪影響を及ぼし合うことで、高齢の方はより深刻で、見えにくい困難に直面することになります。

NPO活動におけるインターセクショナリティの視点

貧困問題に取り組むNPOの現場では、このような複合的な困難を抱えた方と日々向き合っていることと思います。インターセクショナリティの視点を持つことは、支援の質を高める上で非常に重要です。

単に「経済的に困っている高齢者」としてだけでなく、「誰とも話す人がいない」「最近体の調子が悪い」「手続きが苦手だ」といった、その方が抱える他の側面にも注意を向け、それぞれの要因がどのように経済的な困難と関連し、影響し合っているのかを理解しようと努めることが大切です。

具体的には、以下のようなアプローチが考えられます。

他者に伝える際のポイント

インターセクショナリティの概念を他の人に伝える際には、難しい定義から入るのではなく、具体的な事例や比喩を用いると伝わりやすくなります。「高齢であること」「経済的に困っていること」に加えて、「誰にも頼れない状況」が重なると、まるで複数の重い荷物を一人で抱えているようなもので、一つ一つは乗り越えられても、全てを同時に抱えるのは非常に困難になる、といった伝え方が有効かもしれません。

また、「〇〇だから大変」と単一の原因に決めつけるのではなく、「〇〇という状況に加えて、△△や✕✕といった状況も重なっているため、特に困難な状況にある」といったように、複数の要因が「重なっている」「交差している」という点を強調することが理解を助けます。

まとめ

高齢者の貧困は、年齢、経済状況、そして孤独・孤立といった様々な要因が複雑に絡み合って生じる複合的な困難です。インターセクショナリティの視点を持つことで、これらの見えにくい構造を理解し、一人ひとりが直面する困難の全体像を捉えることができます。

この視点は、単なる経済的支援にとどまらない、より包括的で、対象者の尊厳を守る支援を実現するために不可欠です。支援の現場で日々奮闘されている皆さまにとって、この記事が、支援対象者が抱える複雑な困難を読み解き、より効果的なアプローチを考える一助となれば幸いです。