重なる差別の構造を理解する

高齢者の貧困に潜むインターセクショナリティ:見過ごされがちな複合的困難を理解する

Tags: インターセクショナリティ, 貧困, 高齢者, NPO, 社会課題, 複合的差別

高齢者の貧困は、現代社会が抱える深刻な課題の一つです。その原因は年金収入の不足や医療費の増加など、多岐にわたると言われます。しかし、これらの要因が単独で貧困を生み出すのではなく、さまざまな属性が重なり合うことで、より複雑で深刻な困難が生じている場合が多くあります。

インターセクショナリティとは

当サイトでは、「重なる差別の構造」を理解するため、インターセクショナリティという概念を紹介しています。インターセクショナリティとは、キンバリー・ウェンベリー・クレショウ氏によって提唱された考え方で、性別、人種、階級、年齢、性的指向、障がいといった様々な属性が、単独ではなく相互に交差・複合することで、特定の個人や集団が経験する差別や不利益が質的・量的に変化することを指します。単一の属性だけを見ていては見えにくい、重なり合った困難の構造を明らかにするための重要な視点です。

高齢者の貧困におけるインターセクショナリティ

高齢者の貧困をインターセクショナリティの視点から見ると、高齢であるという属性に加えて、他の属性がどのように影響しているかが浮かび上がります。

例えば、次のような要素が高齢者の貧困の深刻化に影響し得ます。

これらの属性は単独で作用するのではなく、「一人暮らしで、持病があり、年金が少なく、地域での孤立も進んでいる女性高齢者」のように、いくつもが重なり合って一人の個人に降りかかってきます。それぞれの要因は多くの高齢者に共通するかもしれませんが、これらが複合することで、その個人が直面する困難は質的に異なり、より深刻で解決が難しくなります。

なぜこの視点が重要か

高齢者の貧困問題に対してインターセクショナリティの視点を持つことは、支援を必要とする人々が直面する現実をより正確に理解するために不可欠です。

単に「高齢だから貧困である」と捉えるだけでは、その人が抱える固有の、そして複合的な困難を見落としてしまいます。例えば、単に経済的な支援(金銭給付など)だけでは、健康問題や孤立といった根深い問題は解決されません。また、すべての高齢者を一律に見るのではなく、性別や健康状態、家族状況など、様々な背景を持つ高齢者一人ひとりが、どのような異なる課題に直面しているのかを理解することが重要です。

この視点を持つことで、支援者や社会全体は、問題の根源をより深く捉え、個々のニーズに合わせた、より効果的で包括的な支援を設計・提供することが可能になります。

NPO活動への示唆:インターセクショナリティをどう活かすか

貧困問題に取り組むNPOの現場では、インターセクショナリティの視点が特に役立ちます。支援対象である高齢者の方々が抱える問題は、経済的な側面だけでなく、健康、孤立、家族関係、居住環境など、様々な要素が絡み合っていることを日々感じていることと思います。

この視点を活動に取り入れるための具体的なステップとしては、次のようなことが考えられます。

  1. 多角的な情報収集: 支援対象者の方から話を伺う際に、経済状況だけでなく、これまでの人生経験、家族構成、健康状態、地域でのつながり、感じている不安など、多角的な情報を丁寧に引き出すことを意識します。
  2. 複合的なニーズの把握: 収集した情報から、どのような属性(性別、年齢、健康など)が重なり合い、どのような複合的な困難(経済的困窮+孤立、健康不安+生活の困難など)を生み出しているのかを分析します。
  3. 連携の強化: 一つの団体だけでは対応できない複合的なニーズに対しては、医療、介護、地域の民生委員、他のNPOなど、様々な機関との連携を強化し、包括的なサポート体制を構築します。
  4. プログラムの多様化: 単一の課題に特化したプログラムだけでなく、複合的な課題に対応できるような柔軟な支援メニューや、個別の状況に合わせたカスタマイズされた支援計画を検討します。
  5. 社会への発信: 高齢者の貧困が単一の原因ではなく、様々な要因が重なり合った結果であることを、事例などを交えながら広く社会に伝えることで、問題への理解を深め、より適切な政策や支援体制の整備を促すことができます。他の人にこの構造を説明する際には、「高齢であること」に加えて、「例えば女性であること」「持病があること」「一人暮らしであること」などが重なることで、困難がどのように深刻になるのか、具体的な例を挙げて説明すると伝わりやすくなります。

まとめ

高齢者の貧困は、単に収入が低いという問題にとどまらず、性別、健康状態、家族構成、居住地域など、多様な属性が重なり合うことで発生する複合的な困難です。インターセクショナリティの視点を持つことは、この複雑な構造を理解し、真に効果的な支援を提供するために不可欠です。この視点を日々の活動に取り入れ、一人ひとりの高齢者が尊厳を持って暮らせる社会の実現を目指していくことが重要です。